LISA HANNIGAN
リサ・ハニガン
”誰もがリサと恋に落ちる”(アイリッシュ・エグザミナー誌)
「誰もがリサ・ハニガンと恋に落ちる」という見出しを付けたのは、アイリッシュ・エグザミナー紙だが、実際にその通りのことが起きている。日本では今回の来日に合わせて発売される『パッセンジャー』で国内デビューとなるが、輸入盤を買って彼女に愛聴している人たちも多いし、ネット上で観られるラジオ局やネットTVなどでの弾き語り映像の人気が非常に高い。その表情豊かな歌唱はもちろん、松嶋菜々子にも似た美女のアイルランド人らしい飾らない人柄に誰もがみんな夢中になってしまうのだ。
ダブリン生まれ、ミース州育ちのリサ・ハニガンの歌声を多くの人たちが初めて聴いたのは、同じアイルランドのシンガー・ソングライター、ダミアン・ライスの02年のデビュー・アルバム『0』でのこと。そのアルバムは全世界で計二百万枚という大成功をおさめるが、彼の繊細な音楽に大きく貢献していたのが、リサ・ハニガンのふわりとした魅惑的な美声で、それはハーモニーをつけるだけでなく、ところどころでリードを歌ったりもして、ダミアンの音楽に不可欠な存在となっていた。 06年のセカンド・アルバム『9』にも参加したが、07年3月にドイツでのギグの開演直前に突然ダミアンが6年間のパートナーシップの解消をリサに宣告した。当然彼女は大きなショックを受けたが、それを自分自身の音楽を発表する機会と考え、田舎の寒い納屋に篭って、デビュー・アルバムとなる一連の曲を書き上げる。それからデモを録音したり、編曲を試したりした数ヶ月の後、リサはバンドとダブリンの友人のスタジオに入り、2週間でデビュー・アルバムを完成させた。 『シー・ソウ』は08年9月に彼女自身のレーベルから発売された。ジャケット写真がリサの縫ったパッチワーク・キルトだったように、まさに手作りのアルバムだったのである。もちろん多くの人に聴いてほしいという希望はあったが、それほど大きな反響は期待していなかったそうだ。ところが、本人も驚いたことに、そのアルバムはアイルランドでダブルプラチナの売り上げを記録し、代表的音楽誌「ホット・プレス」の09年の読者投票で、最優秀デビュー・アルバム、最優秀アイリッシュ・アルバム、最優秀アイリッシュ・トラック、最優秀女性アーティストと4部門をさらう。
そして09年のチョイス・アウォーズにノミネート、メテオ・アウォーズでも最優秀アイリッシュ女性アーティストと最優秀アイリッシュ・アルバムにノミネートされた。だが、ここまではアイルランド国内の話である。最大の驚きは、09年の英国の権威あるマーキュリー・プライズの最優秀アルバムにノミネートされたことだった。
それ以降はツアーなどで忙しい日々を送り、英国や米国でも着実に知名度を上げてきたが、その数年の体験をふまえて、「旅」をひとつのテーマにして制作されたのが、セカンド・アルバム『パッセンジャー』である。リサが自分の個性を確立したアルバムとも言える。本人も言っている。「これまでは自分のことをソングライターと呼ぶのは居心地がよくなかったの。以前は自分を歌手だと思っていたから。でも、今は自分をそう呼んでもいいと思っている」。
ところで、リサはチーフタンズの最新作『ヴォイス・オブ・エイジス』でも1曲歌っているが、09年にそのチーフタンズと一緒にハービー・ハンコックの『イマジン・プロジェクト』に参加した。ジャズ界の大物ハンコックはリサの歌唱をこんなふうに大絶賛している。「彼女が選ぶ音やフレーズにはすごくたくさんのジャズがある。彼女は和音の9度や11度を歌っていたよ。つまりね、そういった中の幾つかは、マイルス(・デイヴィス)が選ぶだろう音のように聞こえるんだ」
text by Tadd Igarashi
http://lisahannigan.ie/
Passenger
Lisa Hannigan
ソングライターとしての個性が確立した重要作。
ソロ2作目。ジョー・ヘンリーをプロデューサーに迎え、ウェールズの国立公園のなかにある農家を改造したスタジオに合宿して録音された。リサ自身が「自分ことをソングライターと呼んでもいいと思えるようになった」と話すように、キャリアにおける一里塚的作品。どの曲も表情豊かな佳曲ぞろいで、ジョーが「彼女はまったくもってファンタスティック」と手放しで賞賛するほど。エンジニアはジョーの右腕、ライアン・フリーランド。